NAIKA MCというラッパーをフリースタイルダンジョンから考える
ライター:MC派遣社員(@prpmqjjpmzrm)
栃木3000万パワーズとしてMAKA、SAMを引き連れて1度目のダンジョンに挑戦したもののDOTAMAに1on1で、サマーボム以来の敗北を喫しダンジョン攻略に失敗したNAIKA MC。
その後、UMB2016、年末のグランドチャンピオンシップでその因縁のDOTAMAを下し、大本命であったヤングたかじん(=呂布カルマ)を下し日本一になった。
そんな彼が、2012罵倒王者TKda黒ぶちと、2015KOK王者崇勲のもう2人の日本一を連れてパンチラインフェチズとしてダンジョンに帰って来た。
チーム戦では1小節回しの技あり勝利を収め、
1on1では2006年UMB王者のFORKをNAIKA本人が、2014年にUMB3連覇を果たした絶対王者R-指定をTKda黒ぶちがそれぞれ下しラスボス般若に到達した。
ネット上でこんな意見を見かける。
「般若がラスボスで本当にいいのか?」
「勢い任せで誤魔化してる部分は無いか?」
本当にそうだろうか?NAIKAとの3/22放送のバトルをROUNDごとに追って考察する。
1ROUND
B-BOYイズム/RHYMESTAR
2006年UMB王者FORK、2014年までにUMB3連覇を果たした絶対王者R-指定、
2002年B BOY PARK王者MC漢などのレジェンド級のモンスターを倒し、
2008年UMBの王者般若に辿り着いたチームを率いるのはUMBの最も新しいチャンピオンNAIKA MC。
まさに新旧のB-BOYのぶつかり合いにDJ SN-Zが選んだビートはB-BOYイズム。お互いの「決して譲れない美学」を叫び合うこととなる。
NAIKAが先行を選び、最初の小節の頭で
「決して譲れないぜこの美学。俺もやられたぜB BOYの文学」
と、いきなりのサンプリングでその意思表明を表す。
その後も「いまだにあんたはど真ん中」とさらにリスペクトを表すNAIKA。
それに対し般若は
「お前にとっての真ん中。目の前にいるのがそう般若だ。
246と環七。超えて来たぜここ今新木場agehaだ。」
とバチバチに韻を踏んで返す。
ここで般若のスキルが光るのが「真ん中、般若だ、環七」と踏んで、最後に「agehaだ」と踏み外したように見えるが、実は最後の2文字はしっかり踏んでグルーブを保ち続けている。
その後の小節。
「ようNAIKA。お前の地元は確か。群馬。」
句読点で区切ったところを見ると母音「a」で踏み続けている。
しかもこれは前の小節からまだ踏み続けていることになる。
そしてこのバースのパンチラインとなる最後のフレーズ
「この文化。アメリカのもんだけど、トランプ以上にここは俺の城だ」
と、最後まで同じ1文字の母音を外さず落として来たことがわかる。
次の「全てのB-BOY倒しここに来た。あとはアンタだけ」のNAIKAのバースに対する
アンサーも般若は要所要所で1~3文字程度の韻を踏んでいるところも見逃さないでほしい。
そしてここでNAIKAは般若と同じ昭和レコードのSHINGO☆西成の曲名「ブレない」を用いて反撃に出るのだが、ここまでNAIKA、般若とも一定して同じようなフローで勝負していることがわかる。
ここで特に最初の2小節ほど般若が今までと若干違うフローを魅せる。
この雰囲気の持ってき方は他のMCにないスキルではないか。
このROUNDは般若が3:2の審査員票で勝利する。
2ROUND
拍手喝采/DABO
ROUND1が終わった時点で、いや、ここまで倒してきた7人のモンスターを倒し、
ラスボス般若と一戦を交えた時点で最高のドラマはクライマックスを迎えつつあった。
ここでSN-Zがチョイスしたビートは拍手喝采。拍手喝采のフックは次のものだ。
寄ってらっしゃい見てらっしゃい
そこ邪魔邪魔 外野は黙らっしゃい
押すな押すなの大盛況
現場は拍手喝采
再びNAIKAが先行を取り仕掛ける。
「NAIKA MC。おっさんの夢を叶える。」
に対し般若。
「俺は自分のガキに夢見させてんだよ。」
この独自の美学を込めたアンサーのあと、
「違い、気合い、この試合、殺し合い、掛け合い、生きがい」
でガチガチに踏んだあと「お前は最高の((コンプラ))」で締めることとなる。
ここは恐らく((キチガイ))であろう。
この言葉にNAIKAは喜びつつ、「ギドラにBUDDHAに般若にMC漢に狂ったのはアンタらのせいだ」と、般若の代表曲『最ッ低のMC』のフックをサンプリングし会場をわかす。
しかし、般若はここで少々話題を変える。
般若にどうしても勝ちたいと語るNAIKAに、ライブ、音源、アルバムに力を注げと語る。
「分からねえようだったらまだカス。そして俺はまた時代を動かす。」
般若は焚巻戦、崇勲戦、じょう戦から一貫したテーマとして、
「hip-hopを背負って立つのは自分自身。まだまだ時代を動かし続ける」というものがあるが、
そのテーマをNAIKAへのディスの内容に絡め、また韻を踏み収めてきた。
この勝負は2:3の審査員判定でNAIKAの勝ちとなる。
ちなみにここまでの2ROUND分の判定結果は僕の意見と全く同じである。
このROUNDの解説で、審査員HIDADDYが
「ツンデレでなかなか良いことを言わない般若が、ビートに乗せて普通に良いことを言っていた」と語った。
これが般若の強さでもある。
彼は楽曲の中とフリースタイルラップの中でしかその熱いhip-hopにかける思いを語らない。だからこそむしろその強さがより伝わるのだ。
ROUND3
Welcome To The Dungeon/SKY-HI
まさに天下分け目の大戦が始まろうとするその瞬間、誰もが興奮しただろう。
そしてそれはダンジョン史上最も熱い回になったことは間違いない。
こんな熱い戦い、ドラマをダンジョンに求めていた者も多いだろう。
多くのヘッズがまちわびたこの展開にビートはWelcome To The Dungeon。
挑戦者NAIKAが最後の勝負にかけ、そこに立ちはだかる最強のラスボス般若を破ろうとするその姿からチョイスしたであろうこのビート。
最後まで先行を取り続けたNAIKA。
この3戦で最適すぎるビートを選び続けたSN-Zにもリスペクトを送る般若であったがやや劣勢。
日本最高峰のロックアーティスト矢沢永吉の名を出し、勢いに乗るNAIKA。そして、般若を倒せるのは自分しかいないと叫ぶ。
しかし、般若が恐らく最もリスペクトを送るアーティスト長渕剛の名を出しそれに応戦。
「俺に勝てるのは長渕剛ぐれぇだ。だったら兄貴連れてこい。この野郎」
ここでNAIKAが世代交代を宣言する内容で攻めるが般若が最終バースに最も実力を発揮することとなる。
「仲間なんて1人だっていなくても俺は死んでもラップをする。骸骨になっても」
これだけでも充分なパンチラインだが、
「敗北を教えてくれ。俺は勝利なんかいらねえ。今ここで生きている。その実感だけがありゃいい。」
骸骨と敗北で押韻したあと、再びの熱いパンチライン。
「これが日本人の誇り。この気持ち。何が気持ち良い?お前と感じあって削りあってるこの命」
誇り、気持ち、気持ち良い、命で踏みながら、
恐らく、深読みがすぎないのであれば「感じあって」が
「何が気持ち良い?」からのダブルミーニングになっていると思われる。
般若はこの最終バースのほとんどをパンチラインで締めたこととなる。これによって般若のクリティカルヒット、審査員票5:0での勝利によってバトルが終わる。
このフリースタイルダンジョンで最も熱いベストバウトから般若がラスボスである理由が再考できるのではないだろうか。
またそんな般若を見れる日を心待ちにしたい。
画像引用:UMB公式より@2015 Libra Records. All rights reserved.