【書道家・靑蘭のlyricパンチライン書道 VOL.11】
<選ばれし女神のゲノム『Awich』>
ライター:靑蘭
小さい頃から様々なラッパーの楽曲を聴いてきた。
最近では、よく耳にする“ラップブーム”の影響もあってか良くも悪くもアイドルがメディアでラップをしたり、”フィメールラッパー”にスポットライトを当てられる機会も多くなったと思う。
今回のコラムを機に思い出してみたが好んで聴いていたのは、どちらかといえば男性ラッパーのスモーキーでハードなリリックのものが多かった気がする。
そんな私が人生で2人だけ心底食らった『日本人フィメールラッパー』がいる。
1人目は、高校生ラップ選手権の審査員でお馴染みの神奈川·相模原を拠点とするヒップホップクルー《SIMI LAB》のメンバー”MARIA”さん。
抜群のリズム感とラップスキル、何より男に媚びない男前なスタイル。
それでいて女性のセクシーさも兼ね備える唯一無二の日本人女性ラッパーだ。
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出典:Awich (@Awich098) | Twitter
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そして2人目が、今回ご紹介させて頂く”Awich”さんだ。
〇”Awich(エーウィッチ)”とは
沖縄県那覇市出身、1986年生まれの31歳。
新進気鋭のヒップホップ集団『YEN TOWN』のメンバー。
ラッパーであり、ファッションブランドをはじめイベント企画等も行うマーケティング会社『CIPHER CITYH(サイファーシティ)』の代表でもある。
9歳から詩を書き始め14歳でラップと出会い、バトルや音源のリリースなど若い頃からラッパーとしてのキャリアを積む。
高校を卒業してからは当時サウスヒップホップの中心であったアトランタに留学をする。
留学中に結婚し出産、現在は一児の母。
壮絶な経験を経て沖縄へと帰国。
〇痛み、闇さえも生きる力に
Awichさんの曲には、留学経験から英語詩が多い。
そのネイティブな発音に私も最初は洋楽かと思ったほど。
しかし楽曲を聴いた人は分かると思うが、日本語詩でも際立つのは卓逸したラップスキル。
時折、沖縄の方言”ウチナーグチ”を交えながら飛び込んでくる言霊には媚びない女の強さや信念が聞こえてくる。
最初に「壮絶な経験」と語ったが、彼女の旦那さんはアメリカ·ブルックリン生まれのストリート育ち。
帰国しようとした矢先に銃殺されてしまう。
アルバム《8》での楽曲、「Ashes」は事件の後を語られたものだそうだ。
生前に旦那さんが「何かあったら埋めないで、流して欲しい」と話されていたそう。
この楽曲では、景色の綺麗な沖縄の海に遺灰を流すという壮絶なストーリーが語られている。
このアルバムを通して聴き、英語詩もできる限り和訳してリリックを覗いてみた。
感じたのは、痛みを痛がるだけじゃない、苦しみを苦しむだけで終わらせない。
自分の闇をも生きる力に変える強い生命力。
彼女の様々なバックグラウンドが音の上で孤高のアートを創り出す。
そして今回、私がリリック書道として紹介するのは、同アルバム《8》にも収録されているANARCHYさんとのfeat曲『WHORU?』だ。
アルバムを聴き私が最も食らったラインだ。
“媚びないエロス
腐ったシーンを解毒
選ばれし女神のゲノム”
冒頭でも語ったが、様々なラッパーが登場している今。
よく女性ラッパーを”フィメールラッパー”と表現するが
英辞典によると、
フィメール=子孫を生み出すその能力を備えているもの
とある。
女性的な意味にとられるが、私は「本物が本物を生み出す。」
と解釈した。
性別関係なく、新たなラッパーがたくさん生まれる今だからこそ求められる価値観かもしれない。
これはラッパーだけの話ではない。
一概には言えないが、流行っている=かっこいいではないと私は常々思う。
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出典:Awich|The Japanese Baddest Bitch
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大事なのは歌でもファッションでも溢れ返る情報に流されず、
自分自身の真ん中に1本のブレない芯を立たせること。
なによりそれを愛すること。
WHO ARE YOU??